2025/10/28
【コラム】サステナビリティ経営とは?中堅・中小企業にとっての重要性を分かりやすく解説
「サステナビリティ」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?
この言葉は、特定の業界用語でも難解な理論でもありません。
本記事では、「サステナビリティ」および「サステナビリティ経営」が現代の企業活動においてなぜ重要視されているのか、その背景とともに、中堅・中小企業に今求められているサステナビリティ経営の取り組みについて、分かりやすく整理していきます。
サステナビリティ(Sustainability)とは、「Sustain(持続する、保持する)」と「Able(~できる)」を組み合わせた言葉であり、日本語では「持続可能性」を意味します。
この概念は、環境・社会・経済などの分野において、将来にわたって企業の価値を高めるプロセスです。企業活動においては、目先の利益やパフォーマンスを追求するのではなく、物事の中長期的な影響を考慮して行動するという考え方です。
この考え方をビジネスに取り入れたものが「サステナビリティ経営」であり、その起源は1972年の国連人間環境会議(ストックホルム会議)まで遡ります。この会議では、初めて環境問題が国際政治の議題として取り上げられ、「経済成長と環境保全の両立」を求める人間環境宣言が採択されました。
現代の「サステナビリティ経営」は、単なる「環境に優しい経営」ではありません。
では、こうして世界に広がったサステナビリティ経営には、具体的にどのような要素が含まれているのでしょうか。
2000年代初頭、企業の社会的責任(CSR)への関心は高まりつつありましたが、当時の投資市場は依然として短期的な利益追求を重視していました。言い換えると、環境汚染や労働問題、ガバナンス不祥事といった社会的課題が、投資判断に十分に反映されていませんでした。
この状況を変える契機となったのが、2006年に国連が発表した「責任投資原則(PRI)」です。ここで初めて、「ESG=環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3要素を投資判断に統合する」という考え方が明確に示されました。
さらに近年では、サプライヤーにおける人権・環境リスクが、自社のブランドイメージや企業価値に直接影響を及ぼすことが顕在化しており、「責任ある調達(Responsible Procurement)」の重要性が高まっています。そのため、企業は自社のみならず、サプライチェーン全体において環境・社会・倫理的責任を果たすことが求められるようになりました。
例えば、国際的なサステナビリティ評価機関であるEcoVadis(フランス)は、評価項目を「環境」「労働と人権」「ガバナンス(倫理的責任)」「持続可能な調達」の4分野に分類しており、サステナビリティ調達を重要な評価項目としてます。
社会の潮流に合わせてサステナビリティの取り組みを始めることは重要ですが、中堅・中小企業にとって本当に必要な施策なのか、内部環境と外部環境の2つの観点から考えてみましょう。
◆ 気候変動リスクの高まり
2015年のパリ協定採択以降、「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」と掲げる国が増加しました。これに伴い、各国で環境関連の法規制や政策が強化され、企業は脱炭素への対応が急務となり、政府や国際イニシアチブ、投資家などから段階的な炭素排出量の削減を要請されています。
◆ 地政学的リスクの高まり
ロシア・ウクライナ戦争や米中対立の長期化は、グローバル経済の不確実性を一層高めています。その結果、原材料価格や人件費、エネルギー価格の高騰が続き、国民生活だけでなく企業経営にも大きな影響を与えています。特に日本では、天然ガスや原油などの化石燃料の輸入依存度が高く、エネルギー自給率はわずか約15%にとどまっています。
◆ サプライチェーン強化の波及
貿易摩擦や関税政策を背景に、サプライチェーンの強靭化も企業の経営課題となっています。これまで大企業を中心に進められてきた取り組みが、取引関係や資金調達を通じて、中堅・中小企業にも求めらるようになっています。特に近年は、グローバル企業が自社のサステナビリティ調達ガイドラインやサプライヤー行動規範への遵守を取引条件とする動きが広がっています。
AI革命の進展と少子高齢化が加速する日本社会において、企業には長期的な視点に立った経営方針の見直しが求められています。特に中堅・中小企業では、人材の確保が喫緊の課題となっており、短期的な人材確保に加え、AI・DX分野の専門人材や次世代の経営幹部など、自社の経営戦略に必要な人材の獲得が課題となっています。
中小企業白書によれば、経営方針として「利益拡大」や「売上拡大」を掲げる企業が多い一方で、実際の経営課題としては「人材確保」「省力化・生産性向上」「受注・販売の拡大」が上位に挙げられており、これらへの対応が経営目標の達成を左右する重要な要素となっています。2024年時点では、63.4%の中小企業が人材不足を、69.4%が採用コストの上昇を実感しており、人材の安定確保は企業存続に関わる課題となりつつあります。

また、経済産業省の「経済産業政策の新機軸」では、社会的な労働力不足に対し、AIやロボットの活用、リスキリング(学び直し)による労働の質の向上などを通じて、労働供給の減少を一定程度補えるとしています。一方で、産業構造の変化に伴い、必要な人材要件が大きく変化するため、職種や学歴間での人材ミスマッチのリスクが高まることも指摘されています。
次回では、「サステナビリティ経営がもたらす具体的なメリット」と、「どんな取り組みから始めればよいのか」を、公的情報や専門的知見、事例を交えて解説します。
「自社には関係ない」と思っていた方も、きっと一歩を踏み出すヒントが見つかるはずです。
・経済産業省 中小企業庁 2025年版 中小企業白書・小規模企業白書
・経済産業省 中小企業庁 2025年版「中小企業白書」全文 | 中小企業庁
・経済産業省 資源エネルギー庁 エネルギー白書2025について(令和6年度エネルギーに関する年次報告)
・経済産業省 通商白書2025 (METI/経済産業省)
・経済産業政策局 「経済産業政策の新機軸」第4次中間整理について
・環境省 参考資料1 責任投資原則(PRI)全文
・国連グローバル・コンパクト Homepage | UN Global Compact
・環境省 人間環境宣言 – 環境省 環境基本問題懇談会(第2回)議事次第 配布資料 (2003年)

