2025/12/11
【コラム】サステナビリティ経営とは?中堅・中小企業にとっての具体的なメリット5つを分かりやすく解説
前回のコラムでは、中堅・中小企業が直面する経営課題や、不確実性の高まる環境下でこそサステナビリティ経営の重要性が増していることをお伝えしました。
今回は、その考え方をより具体的に捉えていただくために、実際のメリットや企業の取り組み事例を交えながら、中小企業におけるサステナビリティ経営の実践イメージをご紹介します。
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1.サプライチェーン強化がもたらす新たな成長機会~評価機関対応から始まり、課題が見えてくる~
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1.1 取引先からの要請が自社の競争力:小野包装株式会社
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2.長期視点と共感が生む、人材の定着と採用の強化~松浪硝子工業・側島製罐・サンユー技研工業・四国情報管理センターの事例に見る~
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2.1 長期目線の経営計画を基にした人材戦略と事業展開に取り組む企業【松浪硝子工業株式会社】
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2.2 MVV策定や人事制度改革などを通じ、組織活性化を実現した企業【側島製罐株式会社】
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2.3 社員の人生背景に合わせた働き方改善で、人材確保と定着を実現している企業【サンユー技研工業株式会社】
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2.4 人材育成と社会課題解決への取組により、人材を確保し成長している企業【四国情報管理センター株式会社】
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3.女性活躍推進や次世代育成支援による経済的メリットの享受~各種認定を取得すると、「賃上げ促進税制」の税額控除率に加算される ~
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4.サステナブル・ファイナンスによる金利優遇~サステナビリティの取り組みによって、資金調達コストが変わる~
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5.地域の社会課題解決の取り組みによって売上が拡大~中小企業が地域の社会課題の解決を通して、付加価値の向上を実現する~
・サステナビリティ経営は、「人材基盤の強化」「取引先との関係強化」「税制や金利の優遇」など様々な経営メリットをもたらします。例えば、人材投資は経営の根幹であり、採用力や定着率を高め、企業信頼を継続的に高めます。
・さらに、環境対応や女性活躍・育児支援は、資金調達力向上や税制優遇につながります。
・こうした取り組みが進むことで、「人材・信頼・資金」の好循環が生まれ、企業は自社の利益とともに長期的な社会的インパクトを創出できます。
・そのため、中堅・中小企業では、サステナビリティ調達ガイドライン対応やパーパス策定、健康経営優良法人認定、えるぼし認定など、具体的な施策を積極的に進めています。
・今後は、不確実な社会情勢を踏まえ、実利を見据えた中長期的な戦略としてサステナビリティ経営を位置づけることが、持続的成長の鍵となります。
~サステナビリティ第三者評価機関対応から自社の課題が見えてくる~
大企業のサプライチェーンに属する中堅・中小企業にとって、取引先のサステナビリティ調達ガイドラインへの対応は、単なる取引維持コストではなく、自社の競争優位性を生み出すきっかけとなっています。
EcoVadisやSedex、RBAなどの第三者機関によるサステナビリティ評価は、既存取引先との関係強化だけでなく、新規開拓にも有効です。特にネームバリューに頼りづらい中小企業にとって、自社採用の説得力を高める重要な要素となり得ます。
たとえば、物流サービスを手がける小野包装株式会社は、取引先の要請を契機にサステナビリティ評価(EcoVadis)に取り組み、信頼性向上と受注拡大を実現しました。こうした取り組みは、従来のQCD(価格・品質・納期)に加え、「なぜこの会社を選ぶのか」というサプライヤー選定理由の可視化につながります。
さらに、評価フレームワークに基づく現状分析と課題把握により、自社に必要なサステナビリティ施策が明確になります。たとえば、ビジネスと人権への対応、資源循環型経済への適応、LCA(ライフサイクル評価)を踏まえた低CFP(カーボンフットプリント)製品への参入など、改善に加え、新たなビジネス機会の獲得にもつながります。
このように、サプライチェーンを「持続可能な仕組み」として再構築する動きへの参画は、単なるコストではなく、近い将来への必要投資です。2027年から適用されるSSBJ基準など大企業でサステナビリティ情報開示が進む中、こうした取り組みを行う中堅・中小企業がサプライヤーとして選ばれる可能性はさらに高まっています。
※EcoVadis(エコバディス):フランスで設立された、企業の「サステナビリティ(持続可能性)」を評価する国際的な評価機関です。自動車、化学、電子機器、医薬品、食品といった製造業を中心に、商社、建設、情報通信、物流など、グローバルなサプライチェーンを持つあらゆる業界・業種において、取引先選定やリスク管理の重要指標として幅広く活用されています。
※Sedex (セデックス):イギリスで設立された、倫理的で責任あるビジネス慣行のデータを共有するための世界最大級の非営利団体(プラットフォーム)です。食品・飲料、小売、消費財メーカーを中心に、サプライチェーンにおける労働基準、安全衛生、環境などのリスク管理や、監査情報(SMETA監査など)の効率的な共有・開示ツールとしてグローバルに活用されています。
※RBA(アールビエー):アメリカで設立された、グローバル・サプライチェーンにおける企業の社会的責任を推進する世界最大の産業連盟(旧EICC)です。電子・電気機器業界を筆頭に、自動車、小売、玩具業界などへ加盟が拡大しており、厳格な「行動規範」に基づいた労働環境の適正化、人権尊重、安全衛生の確保を推進するための事実上の世界標準として広く参照されています。
LNOBコンサルティング支援サービス
サステナビリティ/サプライチェーン対応を支援します。実務に即した設計と外部評価対応をワンストップで提供。
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パートナーシップ構築宣言取引先・利害関係者との協業体制を構築し、持続可能性を推進します。
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評価/監査機関対応EcoVadis、Sedex、RBA 等の評価・監査に対応するドキュメント作成と実務サポート。
~松浪硝子工業・側島製罐・サンユー技研工業・四国情報管理センターの事例に見る~
人材の採用難や離職率の上昇が進む中、従来の報酬や福利厚生だけでは人材を惹きつけ続けることが難しくなっています。現在、多くの中小企業が「長期視点」と「共感」を軸に、人材の採用と定着の強化、企業風土の醸成などの好循環を生み出しています。
松浪硝子工業は、従来の3か年計画から転換し、長期的な成長を見据えた9か年計画を策定しました。計画策定は各部門に任せ、運用面では会議でのプレゼンや意見交換を通じて社員の当事者意識の醸成を促し、モチベーション向上と社内コミュニケーションの活性化を図っています。将来に向けた専門人材の採用には当初、既存社員の抵抗もありましたが、すぐに不可欠なメンバーとして定着しました。現在では、中堅・若手社員が主体性を持ち、積極的な発言や未来志向の意見が目に見えて増えています。
2.2 「MVV策定や人事制度改革などを通じ、組織活性化を実現した企業」【側島製罐株式会社】
組織改革の原点とすべく、全社員を巻き込んで、自身が働く意味、同社の存在意義・価値を定義するMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定に着手。社員の想いと策定過程にこそMVVの価値があると考え、石川代表自身の役割は取りまとめと言語化にとどめ、策定のオーナーシップは社員に任せる形とし、約1年を掛けて作り上げています。
また、各自がやるべきミッションを自ら考え、報酬を宣言・決定する自己申告報酬制度も導入しています。MVVの策定過程から効果は徐々に表れている。売上高は20年ぶりに増収に転じ、その後は3年連続増収を達成した。生まれ変わった組織では、缶の魅力を高めるような自社商品、低CO2鋼材を利用した超エコ缶など続々とアイデアが生まれています。
梅本社長は、自社を「働きたい会社」へと変革し企業としての魅力を高め、採用強化と離職を減らしていくことが必要と考え、一人一人の人生背景に合わせた福利厚生の整備を進めた。各社員のライフステージ、家庭環境や趣味などに応じ、要望を踏まえながら、休暇制度や勤務形態、各種手当を臨機応変にカスタマイズしている。これらの制度が円滑に機能している背景は、属人業務の削減に加え、休暇などによる不在の穴を社員同士でカバーしていることにある。こうした助け合いは、円滑な社内コミュニケーションと社員同士の信頼関係が可能になっています。 また、工場拡張と同時にオフィスも抜本的に改装。選考過程で同社を訪れた求職者は、整備されたオフィスと、社内の風通しの良さを感じたことにより、ほぼ100%が同社への就職を決断するという。平均年齢は約32歳と若く、女性比率は40%まで高まりました。
中城社長は「IT人材の採用が難しくなっている中、未経験人材を採用し、IT人材に引き上げるべく育成に取り組んできた」と話しています。未経験人材の研修プログラムは中城社長自らが先頭に立って構築しました。同社の人材育成関連投資は年間数千万円にも及んでいます。仕事の「やりがい」も重視し、デジタル技術を活用して農産品直販所の販売状況を可視化するなど、地域の社会課題解決にも積極的に取り組み、社会貢献を社員に実感させることで挑戦意欲を促しています。
人材育成や社会課題解決への取り組みは、採用や定着にも好影響を及ぼしています。最近では同取り組みに興味を持ったUターン・Iターン層の入社希望者が増加していることに加え、定着面を見ても2023年度の離職率は2.7%と業界他社と比較して低水準にあります。
これらの企業に共通するのは、人を「労働力」ではなく「未来を共に創る仲間」として捉える姿勢です。長期的な視点で理念を共有し、柔軟な制度を整えることで、信頼関係を築き、人材の採用と定着を強化しています。
短期的な人材確保ではなく、共感と信頼による持続的な関係づくりこそが、これからの企業成長の鍵となるでしょう。
LNOBコンサルティング支援サービス
サステナビリティ/サプライチェーン対応を支援します。実務に即した設計と外部評価対応をワンストップで提供。
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パーパス策定・MVV整理/浸透支援企業のパーパス策定、ミッション・ビジョン・バリューの整理と社内浸透施策を支援します。
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従業員エンゲージメント調査現状把握のためのアンケート設計・実施・分析を行い、改善アクションを提案します。
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人事制度設計行動規範、評価制度、階級制度、賃金体系、報酬設計、研修体制などの設計と導入支援。
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健康経営の推進健康経営優良法人の認定取得支援を含む、従業員の健康施策立案と実行支援。
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女性活躍・育児支援の推進女性のキャリア支援や育児サポート施策の設計・運用を支援します。
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求める人物像の可視化経営戦略に基づき、必要なスキル・行動特性を可視化して採用・育成に反映します。
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ヒューマンキャピタルレポート作成人材情報とESG観点を統合したレポート作成(外部公開・社内分析)を支援します。
~各種認定を取得すると、「賃上げ促進税制」の税額控除率に加算される~
近年、サステナビリティ経営の一環として、女性活躍や育児と仕事の両立支援に力を入れる企業が増えています。これらの取組みは、従業員の定着率向上や企業ブランドの強化といった効果に加え、税制上の優遇という明確な経済的メリットも享受できます。
令和7年度(2025年度)の税制改正では、「人への投資」を軸とした政策のもと、女性活躍や育児支援に積極的な企業を後押しする新たな優遇策が盛り込まれました。たとえば、賃上げ促進税制では、「くるみん認定」や「えるぼし認定2段目以上」を取得した企業に対して、通常の税額控除率に最大5%の上乗せが認められています。
具体的には、賃上げ率を2.5%以上実施した中小企業が「くるみん」認定を取得した場合、教育訓練費の増加要件などと組み合わせることで税額控除率が35%となり、さらに他の要件を満たせば最大45%まで拡大するケースもあります。これにより、人的資本への投資に伴う税負担が大幅に軽減され、企業のキャッシュフロー改善にもつながります。
こうした制度は、単なる税制優遇施策ではなく、「人を大切にする経営」を支える仕組みです。女性活躍や育児体制の整備は、社員の満足度や企業イメージの向上にとどまらず、財務戦略と人材戦略の両面から中小企業の成長に資する経営施策へと進化しています。
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サステナビリティ/サプライチェーン対応を支援します。実務に即した設計と外部評価対応をワンストップで提供。
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女性活躍推進えるぼし認定取得支援を含む、女性の採用・昇進・キャリア支援施策の設計と運用支援。
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育児支援推進くるみん認定取得支援を含む、育児休業・復職支援や職場環境整備の支援。
~サステナビリティの取り組みによって、資金調達コストが変わる~
企業のサステナビリティへの取り組みが、資金調達コストの差として顕在化し始めています。メガバンクだけでなく、地方銀行でもサステナブル・ファイナンス商品が拡充されており、脱炭素社会の実現や地域創生を背景に、金融機関ではESGやSDGsに積極的な企業を対象とした金利優遇型の融資や私募債が広がっています。
たとえば、日本銀行の報告では、地域金融機関が「環境格付私募債」や「利子優遇融資」を通じて、CO₂削減や環境配慮型製品の推進企業を支援しているとされています。
サステナビリティ目標達成度に応じて金利が変動するサステナビリティ・リンク・ローンも普及しており、サステナビリティの取り組みに積極的な企業が実質的な低金利の恩恵を受ける仕組みが整ってきています。
このように、サステナビリティへの取り組みは、企業イメージ向上にとどまらず、金利のある世界において低金利での資金調達という実利をもたらす新たな経営戦略です。特に中小企業にとっては地域金融機関との対話を深めることで、自社の取り組みを資金調達力へとつなげる好機となっています。
~中小企業が地域の社会課題の解決を通して、付加価値の向上を実現する~
帝国データバンクの調査によると、地域の社会課題に取り組む小規模事業者が、着実に成果を上げ始めています。地域課題に営利事業として取り組む企業の約48%が「売上増加」を実感しており、取り組んでいない企業(39%)を上回る結果となりました。これは、社会貢献の枠を超えた地域密着型の課題対応が、新たな需要創出や販路拡大につながることを示しています。
一方で、取り組みが進まない理由として最も多かったのは「地域にどのような社会課題があるのか分からない」(35.1%)という声であり、情報不足や連携の欠如が成長の障壁となっています。
そのような中、中小企業同士の連携を促進し新たな需要を獲得するプロジェクト型共同受注体である東京都大田区のI-OTA合同会社の事例が注目されています。
近年、大手製造業ではユニットや完成品の「まとめ発注」が進み、納品条件も高度化しています。中小企業単独では対応困難な案件が増え、地域全体での連携強化が課題でした。
この状況を受け、同社は大田区に根付く「仲間まわし」の文化を活かし、必要な技術を持つ工場を結び付け、メーカーの「ワンストップ対応」ニーズに応える仕組みを構築しました。同社が営業窓口として案件を受注し、複数企業が協力して開発から完成品製造まで担うことで失注を防ぎ、付加価値の高い案件受注を目指しています。
現在、相談案件は累計500件超。まとめ発注の受注も増加し、海外案件や医療・半導体など高度技術を要する案件の獲得にも成功しています。
本事例のように、社会課題に地域の中で対応していくことも、中小企業が付加価値を見いだせる一つのビジネスチャンスとなっていく可能性があります。
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サステナビリティ/サプライチェーン対応を支援します。実務に即した設計と外部評価対応をワンストップで提供。
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ライフサイクルアセスメント製品・サービスのライフサイクル全体を評価し、環境負荷低減の優先順位を明確化します。
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インパクト分析経済価値と社会価値の両立を可視化し、事業判断や優先施策の示唆を提供します。
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サステナビリティ調達ガイドライン対応EcoVadis / Sedex / RBA 等の要件に沿った調達ガイドライン策定と実務対応を支援します。
前回のコラムで見てきたように、日本企業は人手不足や人件費高騰、取引先からのサステナビリティ調達要請への対応遅れなど、存続に関わる深刻な課題に直面しています。
こうした課題に対応するため、中堅・中小企業にとっては、地域社会との共生や人材確保、持続可能なサプライチェーン構築が一層重要になっています
その解決策として注目されるのが、サステナビリティ経営です。これは「人材・信頼・資金」の好循環を生み、税制・金利優遇や新たな需要創出など、実利と社会価値を両立する長期視点の経営戦略です。
今こそ行動の時です――
“関係ない”から“始めよう”へ。サステナビリティ経営は、今この一歩から。持続的な成長へ
・EcoVadis 企業事例 - 小野包装がサステナビリティ経営に取り組む意義 | EcoVadis
・経済産業省 中小企業庁 2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要20250425001-1r.pdf
・経済産業省 中小企業庁 中小企業庁:中小企業向け「賃上げ促進税制」
・日本銀行 金融機構局 金融高度化センター SDGs/ESG金融を巡る最近の動向

